「リアルウォーター(REAL WATER)」は、強いアルカリ性を売りにしたネバダ州のボトル入り飲料水ブランドです。しかしこの飲料水は数々の健康問題を起こし、少なくとも25人が中毒、1人が死亡したことがCDC報告書で明らかになっています。このリアルウォーターに含まれていた化学物質と、なぜ混入したのかについて科学メディア「Ars Technica」が解説しています。
*Category:
「リアルウォーター」に混ぜられた危険すぎる化学物質
2021年初頭、ネバダ州の地元当局と食品医薬品局が、少なくとも5人の乳幼児がこの水を飲んで肝不全を起こしたと発表しました。2021年5月、司法省はFDAに代わってリアル・ウォーター社を提訴し、同社の役員であるブレント・ジョーンズ氏と息子のブレイン・ジョーンズ氏が複数の製造違反の中で製造された粗悪品を販売していたことを指摘しました。2021年11月、アメリカ疾病予防管理センターは、2020年末にネバダ州で22件、カリフォルニア州で3件の急性肝不全が発生したと報告しています。
リアル・ウォーター社は今回の事件を受け、2億ドルの懲罰的損害賠償責任と2850万ドルの賠償責任を求められています。原告の中には、重度の肝不全で入院し、危うく肝臓移植が必要になるところだった生後7ヶ月の赤ちゃんや、この水を何年も飲み続けた結果、肝不全で入院し69歳で死亡した女性が含まれていました。
当時、同社は水にマイナスイオンを注入したpH9.0のアルカリ性の飲料水であると主張していました。リアルウォーター社は、この水を飲むと「細胞の水分補給が促進される」といった、証明されていない健康効果について曖昧な表現をしていました。連邦規制当局が同社の水を調査すると、問題のある水処理プロセスが発見されました。
リアル・ウォーター社は「炭素濾過、逆浸透濾過、紫外線濾過、オゾン濾過」によって水道水を処理し、その後、塩化カリウムを加え独自の「イオナイザー」装置を通して水に電流を流していました。これにより、陽イオンと陰イオンの溶液が生成され、陽イオンの溶液を廃棄し、陰イオンの溶液を保管します。そして、陰イオンの溶液は、「イオナイザー」装置を通過し再び分離されます。
こうしてできた陰イオンの溶液は、水酸化カリウム(苛性カリ)、炭酸水素カリウム(ベーキングパウダーに使われることもある)、塩化マグネシウム(栄養補助食品や道路の凍結防止に使われる塩)で処理され、「E2濃縮液」となり、これを希釈するとアルカリイオン水になるとしていました。
しかし、この「イオナイザー」の中で生成されたのが、ロケットや宇宙船の燃料に含まれる猛毒の化学物質「ヒドラジン」です。ヒドラジンはロケットの燃料として使われることがある科学物質ですが、人体には非常に強い毒性をもち、接触や気化吸引でも腐食・中毒症をもたらします。日本では「毒物及び劇物取締法」で指定されている化学物質です。
イオナイザーは、車のバッテリーを充電するために使われるジャンパーケーブルのようなもので電気を通しただけのチタン管でした。専門家のイッサム・ナジム氏は、充電された水の中で、空気中に自然に存在する窒素ガスが水と反応してヒドラジン(N2H4)が生成されたか、あるいは電気分解中にアンモニア(NH3)が最初に生成され、その後に水酸化物と反応してヒドラジンが生成された可能性があると証言しています。
“These people were outrageous,” Kemp said. There was “no safety testing, no analysis of the product to see what was in it.” He said that the person who developed the water treatment process for Real Water bought the titanium tubes “from some Russian guy in the ’80s” and spent four to five months making alkaline waters in his garage, working until he had a formula that didn’t make him vomit or have diarrhea.
— 引用:Ars Technica
訳:「この連中はとんでもない。安全性のテストもなければ、製品に何が含まれているかの分析もなかった」彼によれば、リアルウォーターの水処理プロセスを開発した人物は、「80年代にどこかのロシア人から」チタンチューブを購入し、4、5ヶ月かけて自宅のガレージでアルカリ水を作り、嘔吐や下痢を起こさない処方ができるまで働いたという。
リアル・ウォーター社の弁護士であるジョエル・オドゥー氏は、この件に関して同社は責任を認めているが、懲罰的損害賠償責任を負うべきでないと法廷で主張しました。また同社は水中にヒドラジンが含まれていることを認識していなかったので、ヒドラジンの検査は行なわなかったと述べています。