スマホをどこに置いたかはすぐに忘れてしまうのに、ラジオから流れてくる何年も聴いていない曲がすらすらと口ずさめるのはなぜでしょうか。歌詞は私たちの記憶の中で、特別な場所に存在するのでしょうか。歌詞と記憶の関係について、海外の科学メディア「THE CONVERSATION」が詳しく解説しています。
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「歌詞」と「記憶」の関係
音楽は言葉や情報の記憶を助けるための記憶術として使われてきた歴史があります。文字が登場する以前、音楽は物語や情報を口頭で伝えるために使われていました。実は音楽と言葉が記憶の中で複雑に結びつくことには、いくつかの理由があるのです。
まず、音楽の特徴が、歌詞を覚えるための予測可能な「足場」となることが多いということです。例えば音楽のリズムやビートは、一連の流れの中で次に出てくる単語の長さを知る手がかりとなります。3音節の単語が曲の中の特定のリズムに合っていることがわかれば、思い出す単語の選択肢が限定できます。
他にもメロディーは、テキストを意味のあるかたまりに分割するのにも役立ちます。これによって、単語をひとつひとつ記憶するよりも、長い区切りの情報を記憶することができます。また、歌には韻や叙述といった文学的な工夫が施されていることが多く、暗記をさらに容易にするのです。
さらに何度も歌ったり聞いたりしたことのある歌は、潜在記憶を通してアクセスできるようになることがあります。よく知られた曲の歌詞を歌うことは、手続き記憶の一種となるのです。手続き記憶とは、自転車に乗る方法や楽器を演奏する方法など一度記憶されるとあまり考えなくてもできる記憶のことです。音楽がこのように記憶に深く刻み込まれる理由のひとつは、私たちが生涯を通じて同じ曲を何度も何度も聴く傾向があるからです。
音楽はまた基本的には感情的なものです。実際、人々が音楽に夢中になる主な理由に、音楽が伝え、呼び起こす多様な感情にあることが研究で明らかになっています。そして感情的な刺激は非感情的な刺激よりもよく記憶されることもわかっています。
音楽と歌詞の関係
一点注意しなくてはならないのは、音楽が歌詞の記憶を助けるとは限らないということです。例えば、新しい曲に初めて出会ったとき、メロディーと歌詞の両方を記憶するのは、歌詞だけを記憶するよりも難しいのです。これは、複数のタスクが関係していることを考えれば、理にかなっています。しかし、この最初のハードルを乗り越え、何度も曲を聴いた後に、有益な効果が現れるようです。一般的にメロディーが馴染んでくると、歌詞は曲がない場合よりも覚えやすくなるのです。この分野の研究は、さまざまな神経変性疾患を持つ人々を支援するためにも応用されています。例えば、音楽はアルツハイマー病や多発性硬化症の人が言語情報を記憶するのに役立つようです。
このように様々な要因が重なって歌詞は記憶されているのです。もし何かを覚えておきたい時、曲を作って歌ってみるのもいいかもしれませんね。