毛の塊が落ちているようにみえますが、これは毛虫です。このフランネル蛾の幼虫が、これまで昆虫に見られなかった毒を隠し持っているということが、オーストラリアのクイーンズランド大学の科学者が率いる新しい研究によって判明しました。
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4億年前にバクテリアから毒を受け継いだ毛虫
この毒を持つ毛虫はフランネル蛾の幼虫で、北アメリカや南アメリカに生息する蛾属です。 毛のような剛毛が生い茂り、毛虫サイズの猫のように見えることから、「猫毛虫」と呼ばれることもあります。しかし、あだ名はそれだけではありません。別名「毒蛇毛虫」とも呼ばれ、その剛毛の下には隠れた危険が潜んでいるのです。
この毛虫の毛には毒棘が隠れており、触ると毒を注入してきます。この毒は即座に「野球のバットで殴られた」「熱い炭火の上を歩いた」「患者が経験したことのない最悪の痛み」などと表現される激烈な痛みを引き起こすそうです。
今回の研究では、この毛虫がもつ毒は、古代の微生物の助けを借りて毒を進化させた可能性があるということが判明しました。分析によると、遺伝子の水平伝播と呼ばれるプロセスによって、進化の過程でバクテリアから昆虫に毒素の配列が移った可能性があるというのです。
研究チームは、サザン・フランネル・モスとブラック・ウェーブ・フランネル・モスという2種の蛾に焦点を当て、毒システムの解剖学的構造、化学的性質、作用様式を明らかにしました。その結果、近縁の毒毛虫だけでなく、一般的な昆虫とも大きく異なる毒システムが発見されました。
クイーンズランド大学の分子昆虫学研究者アンドリュー・ウォーカー氏は以下のように述べています。
この毛虫の毒が、これまで昆虫で見たものとは全く異なっていたことに驚きました。さらに詳しく調べてみると、病気になる細菌毒素の一部と非常によく似たタンパク質が見つかりました。
この毛虫の毒の奇妙さは、それが他の昆虫の毒から独立して進化したことを裏付けていることだ、と研究者たちは話しています。具体的には、この毛虫の毒は細菌毒素の一種に似ており、「細胞表面に結合し、ドーナツのような構造体に集合して、細胞表面に穴をあける」と言うのです。
ウォーカー氏によれば、この毛虫の毒は、なんと4億年以上前にバクテリアから遺伝子が移されて進化したのだそう。激烈な痛みを味わいたくなければ絶対に触らないことですが、一方でこの細胞内に侵入する能力は、ドラッグ・デリバリーにおいて特別な可能性を秘めていると研究者は期待しています。