タコは、気温の急激な変化に対応するために、ある驚きの方法をとるということが判明しました。なんと自身のRNAを自ら編集し作り変えることができるというのです。
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タコが持つ特殊な能力
タコは気温が急激に変化した場合、重要な神経活動を維持するために、神経細胞内の主要なタンパク質を迅速に再コード化するということが判明しました。これはタコやイカなどの一部の種に見られる、RNAをその場で編集する特殊な能力です。
シカゴ大学海洋生物学研究所の海洋生物学者ジョシュア・ローゼンタールは以下のように述べています。
タコは季節の温度変化に適応するために脳の配線を変える
私たちは一般に、遺伝情報は固定されていると考えていますが、環境はタンパク質のコード化に影響を及ぼし、頭足類ではこれが大規模に起こっています。
RNAの再コード化によって、生物は多様なタンパク質をいつでもどこでも作り出すことができるようになります。 頭足類では、再コード化のほとんどが神経系機能に非常に重要なタンパク質のものであるため、物理的環境の変化に順応するために利用しているのではないかというのが自然な疑問です。
— 出典:EurekAlert
私たち人間も生存のために遺伝的指示を変化させる可能性はありますが、それはDNAを世代間で微調整しながら、ゆっくりと起こるものです。遺伝暗号の変化は、私たちの体を作る個々のタンパク質の最終的な形と機能を決定し、その中には脳内のシステムや構造的な基盤も含まれます。しかし、DNAが直接タンパク質を作るわけではありません。化学的にコード化された命令は、細胞の核に留まり、メッセンジャーRNA(またはmRNA)と呼ばれる中間分子を通じてテンプレートを発行し、核から周囲の物質に移動して小さなタンパク質を作る装置に供給されます。
ほとんどの生物は、テンプレートが発行されると、それ以上RNAに変化が起こらないので、とても簡単です。しかし、頭足類では、少し事情が異なります。2015年、科学者たちは、タコ、イカが核を離れた後にRNAを微調整し、その場で編集することで、迅速な生理学的反応を可能にすることを発見しました。
なぜそのようなことが行われるのかは不明であり、おそらく一時的な環境の変化に適応するためだろうと考えられてきました。RNA編集であれば、DNA編集のように長期的な実施と比較的永続的な維持が必要なく、状況に応じて変化し、再び変化することができます。
海洋生物学研究所とセント・フランシス大学の海洋生物学者マシュー・バークが率いる研究チームは、この仮説を検証してみました。
カリフォルニア・ツースポットタコという2005年に初めて全ゲノムが解読されたタコを対象に実験が行われました。このタコを22℃の温水と13℃の冷水に順応させ、遺伝情報をデータベースゲノムと比較しました。その結果、6万箇所以上の既知の編集部位に注目したところ、驚くべきことが判明したのです。論文の共同執筆者であるテルアビブ大学の物理学者エリ・アイゼンバーグは以下のように述べています。
温度感受性の高い編集は、編集部位の約3分の1、つまり2万箇所以上で行われていました。しかし、均等に起こるわけではありません。編集されるタンパク質は、神経タンパク質になる傾向があり、温度感受性があるほぼ全ての部位は、寒冷時に、より高度に編集されます。
— 出典:EurekAlert
つまり、編集は暖かい水ではなく冷たい水に慣れることに対応しているようで、特に低温に敏感な神経タンパク質に影響を及ぼしています。また、タコの神経系の機能に重要な構造タンパク質であるキネシンとシナプトタグミンをテストしたところ、生じた変化がその機能に影響を与えることがわかりました。
研究チームが観察したものが実験室での結果である可能性もあったため、野生のカリフォルニア・ツースポットタコとベリル・ツースポットタコを夏と冬に捕まえて、ゲノムもチェックしました。これらのタコは、RNA編集のパターンが似ており、現在の温度条件に合わせて機能を最適化していることが示唆されました。
また、変化の速さを確認するための実験も行いました。タコの水槽の温度を14℃から24℃に、あるいはその逆に、20時間かけて0.5℃刻みで上下させたのです。温度変化の直前、直後、4日後に、それぞれのタコでRNA編集の程度を調べました。その結果、RNAの編集は非常に速く行われることが判明しました。
これらの発見から、頭足類のRNA編集の少なくとも一つの機能が、危険な状況への迅速な対応であることを示唆しています。反応を呼び起こす可能性のある環境変数は他にもあります。低酸素、汚染、社会的状況の変化などです。研究チームは、RNA編集がタコやイカの間でかなり広く行われている環境の変化に対応した生存戦略であると推測しており、より詳細に調査する予定とのことです。