量子世界の不思議な性質を表した有名な思考実験「シュレーディンガーの猫」。この状態が肉眼で見えるサイズで再現されたと、科学メディア「Live Science」が報告しています。
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粒子が「重なりあった状態」を再現
スイス連邦工科大学チューリッヒ校の物理学者は、量子コンピュータでよく使われる超伝導回路に共振器を結合し、エルヴィン・シュレーディンガーの有名な思考実験「シュレーディンガーの猫」を前例のないスケールで再現しました。重ね合わせの状態は、私たちの日常的な経験にはないものです。サッカーボールが落ちるのを見れば、ストップウォッチでその落下速度を追跡することができます。最終的な落下位置も明確で、飛行中の回転も一目瞭然です。サッカーボールが落下するときに目をつぶっても、これらの位置や挙動が異なるとは考えられません。しかし、量子物理学では、ボールが地面に落ちているのを見るまでは、位置、スピン、運動量などの特徴は確定しないのです。
これは量子物理学のコペンハーゲン解釈と呼ばれるもので、目に見えないシステムは、最終的な状態が観測されるまで、あらゆる可能性を秘めた状態で存在するというものです。シュレーディンガーはこの解釈をあまり好ましく思っておらず、この考え方がいかに馬鹿げているかを示すために、粒子の観測されていない位置が、観測されていない猫の一生に関連した場合というシナリオでその荒唐無稽さを説明しました。
この思考実験では、崩壊する原子からランダムに吐き出される粒子がガイガー計数管に衝突すると、毒の入った小瓶が粉々になり、猫が即座に死んでしまうと仮定しています。ここにコペンハーゲン解釈を適用すると、箱の猫は観測されるまで、生きている状態と、死んでいる状態の重ね合わせの状態となるのです。
しかしシュレーディンガーの猫は、1世紀近く経った今、もはや冗談ではなくなっています。小さな粒子だけでなく、分子全体(数千個の原子の集まりは言うに及ばず)でも観測されるようになったのです。理論上、猫のような大きな物体でも、電子やクォーク、光子と同じように重ね合わせの状態で存在することができます。とはいえ、このような曖昧な状態を大規模に再現することは困難ですが、今回の実験では、史上最も重い物体でこの現象が再現されました。
実権では、高倍音バルク音響波共振器(HBAR)が16.2マイクログラムの猫として活躍しました。この装置は、電流を流すと短い周波数帯域でハムノイズを発生させることができます。チューリッヒ工科大学の物理学者であるチュー・イーウェン氏は、「結晶の2つの振動状態を重ね合わせることで、16マイクログラムのシュレーディンガー・キャットを作り上げることができた」と述べています。放射性原子、ガイガー計数管、毒の役割を果たすために、研究チームはトランスモンを使用しました。トランスモンは、実験の電源、センサー、重ね合わせの役割を果たす超伝導回路です。この2つをつなぐことで、HBARを動かし、その振動を2つの位相で同時に震わせることができ、その現象はトランスモンにフィードバックされます。
今後、どの程度の実験が可能かは未知数です。実用面では、重ね合わせのスケールの限界に挑戦することで、量子技術をより強固なものにする新しい手法や、物質や宇宙を研究するためのこれまで以上に高感度なツールの基礎となるものが生まれるかもしれません。
量子力学の研究は何十年も前から進められていますが、シュレーディンガーの猫のような現象がなぜ起きるのかについては、いまだ明確になっていません。しかし今後、このような装置の開発が進むにつれ、謎も少しずつ判明してくるのかもしれないのです。