チェルノブイリ原子力発電所から流出した放射線を浴びていた犬の検査結果が、科学誌「Science Advances」で公開されました。この研究は、長期間被爆した生物がどのように変化するのかを示す、重要な手がかりになるかもしれないと期待されています。
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放射線を浴び続けた犬におきた変化
1986年、ウクライナのチェルノブイリで起きた原子力発電所の事故により、地域住民は家を失い、ペットを残して永久避難を余儀なくされました。このような捨てられた動物が病気を蔓延させたり、人間を汚染したりすることを懸念して、当局は動物を駆除しようとしました。
しかしそのような中でも、犬たちは生き延びています。
現在、立ち入り禁止区域と呼ばれる事故現場周辺には、数百匹の放し飼いの犬が暮らしている。彼らは、廃墟と化したプリピャチの街を歩き回り、高濃度に汚染されたセミホディ駅で寝泊まりしています。
これを受け、2017年から「Clean Futures Fund」という団体が、地元の犬たちのために動物病院を開き、ケア、ワクチン投与、避妊・去勢手術を行っています。研究者はこの団体と協力し、立ち入り禁止区域とその周辺のさまざまな場所に住む302匹の犬から血液サンプルを採取しました。
その結果は驚くべきものでした。チェルノブイリ発電所の犬は、純血種の犬とも、他の自由繁殖の犬たちとも異なる遺伝的特徴をもっていることが判明したのです。これらの犬の半数近くは発電所のすぐ近くに住んでおり、残りの半数はチェルノブイリ市(約15km離れた人口の少ない住宅地)に住んでいました。
イヌの集団の間には重複があるものの、一般的に発電所のイヌとチェルノブイリ市のイヌは遺伝的に異なっていることがわかった。両者の間に遺伝子の流れはほとんどなく、交配はほとんどなかったと思われる。
つまり、たった約15km離れているだけの犬と、禁止区域に暮らす犬に違いがあったのです。
なお研究者たちは、親と子をつないで親族関係を追跡し、15の異なる家族グループを特定しました。その中には、広大な敷地を持つ大家族もあれば、地理的に明確なテリトリーを持つ小さな家族もあったとのこと。また、3つの家族グループが、使用済み核燃料の貯蔵施設を共有していることも判明しています。
ただしイギリスのポーツマス大学の環境科学者であるジム・スミス氏は、このDNAの違いに放射性環境が影響したと断定するにはまだ早すぎると述べています。
低線量放射線の影響を他の要因から除外することは容易ではないとスミスは言う。「このような研究は非常に困難です…自然環境では他にもいろいろなことが起こっています」。さらに、人間が汚染地帯から離れると、動物は何らかの利益を得ることができる、と彼は言う。
コーネル大学獣医学部の犬遺伝学者で、今回の研究には参加していないアダム・ボイコ氏は、「これほど詳細に、単一で自由繁殖の犬の集団を遺伝学的に調べた人は、これまでいなかったと思う」と述べています。これらの犬のDNAは、今後の研究で特に有用なデータをもたらすかもしれないとのこと。発電所の犬、チェルノブイリ市の犬、そして非放射能環境に住む純血種のシェパードのDNA配列を比較すれば、放射線に関連したゲノムの変化を特定することができるかもしれません。