「半導体産業」は世界で最も重要な産業の1つですが、この分野で圧倒的なリードを持っているのは米国です。しかし、同じく大国である中国には、台湾を除いて最新の半導体を作る能力はありません。なぜ、中国は半導体産業で出遅れたのでしょうか?その理由について、海外メディア「Vox」が解説しています。
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中国が半導体競争で遅れをとった理由とは?
1950年代に米国の技術者によって最初の半導体チップが発明されました。最初の半導体はシリコンの上に4つのトランジスターが乗っています。このトランジスタの数が多ければ多いほど、チップは高性能になります。
1960年には、4倍のトランジスタを搭載したものが作られました。1960年代初頭から、半導体は指数関数的なスピードで進化してきたのです。
半導体チップを作ることに特化した最初の会社は米国にあり、主な顧客は米国政府だけでした。米国政府は、コンピューティングが世界の舞台で各国の力を決定する中核的な要素であると信じていたのです。その判断は正しいでしょう。
当初、これらの半導体企業は、サプライチェーン全体を扱っていました。つまり、米国国内でチップを設計し、製造し、組み立てていたということです。
1960年代後半になると、民間製品向けのチップを設計したほうが、もっと儲かると気づきます。そこで、多くの半導体メーカーは、製造と組み立てを、労働力の安い日本、台湾、韓国、香港の工場に移しました。そして、米国政府もそれを後押ししました。なぜなら沢山製造すれば、半導体の価格がもっと安くなるからです。
また、これらの国はすべて米国の同盟国やパートナーであり、これは彼らの経済を支え、関係を深めることになります。一方、半導体企業がライバルであるソビエト連邦や中国と技術を共有することを禁止しました。
その後、半導体技術は大幅に進化します。その結果、1970年代から80年代にかけて、日本の東芝と韓国のサムスンが、米国製に匹敵するチップを設計・製造し始めます。また、1990年代には、台湾のTSMCがチップの製造に成功します。
米国とその同盟国が半導体技術の限界に挑んでいる一方で、中国は遅れをとっていました。なぜなら、米国から半導体技術へのアクセスを妨害されていたことに加え、60年代から70年代にかけて、中国の優秀な科学者やエンジニアの多くが、毛沢東によって国外に追いやられていたからです。しかし、その後数十年にわたり、中国の新しい指導者たちが追い上げを図ります。
1990年代に入ると、米国は中国と友好的になり、輸出規制のほとんどが解除されました。同時に中国は多くのチップメーカーを勧誘し、組み立て工程を中国に移しました。そして2000年代には、サプライチェーンの末端を中国が支配するようになります。
しかし、中国政府は中国の技術全体が、米国、日本、台湾から輸入したシリコンの基盤に依存していることに気がつきます。中国の指導者たちは、当然のことながら、このままではリスクが大きいと判断しました。そこで中国政府は、自国のチップ設計・製造会社に資金を注ぎ込み出しました。中国は国内だけで完結する半導体のサプライチェーンを構築することを目指したのです。
やがて中国は、旧世代のチップの設計、製造、組み立てを、ほとんど自前で行えるようになりました。しかし、最先端のチップを作るには、まだ何年もかかりそうでした。
先進的なチップの設計に必要なソフトウェアを作っているのは、米国の3社だけです。そして、その設計を実際のチップにするためには、1社しか作っていない機械が必要です。その1社というのがASMLです。
そこで中国はASMLの技術を盗用した中国企業を支援し出します。しかし、この計画は裏目に出てしまいました。このことは、米国政府や他の政府を大いに怒らせ、単なる経済問題ではなく、安全保障に重点を置いた問題へと発展していきます。その結果、2018年、トランプ政権は米国企業が中国のテック企業であるZTEに部品を販売することを禁止しました。そして2019年には、Huaweiとその関連会社との取引を禁止しています。
2022年、バイデン大統領は、中国の半導体産業をより広範囲に規制します。すべての米国企業が中国に先進的なチップを販売することを禁止した上、中国の設計会社が米国製の設計ソフトウェアと米国製の製造装置を使用することも禁止したのです。さらに、米国の半導体技術を使用するグローバル企業が中国に先進的なチップを販売することも禁止しています。中国の半導体産業が遅れを取っている理由は、厳しい規制がかけられているからなのです。
また、米国は自国のチップ製造会社に何十億ドルも投資する法律を成立させています。そして、台湾の最大手メーカーであるTSMCと、米国内に製造工場を建設する契約も締結しました。このような背景から、中国は半導体で遅れ、台湾と米国が大きな優位を持つようになったのです。