ChatGPTを開発したOpenAIの設立には、テスラやTwitterのCEOを努めているイーロン・マスクが関わっています。多額の出資をOpenAIにしていた彼ですが、5年前に、関係を断ち切っていることを明かしています。OpenAIとイーロン・マスクの間に、一体何があったのでしょうか。
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OpenAIはなぜ〝非営利〟から〝営利〟企業へと変わってしまったのか
2010年代半ば、AIは簡単な質問にさえ答えるのに苦労する音声アシスタントとして始まりました。さらなる発展のためイーロン・マスクをはじめとする有力者や、Amazon Web Services、Infosys、Y Combinator Researchなどの企業も関わって10億ドル相当の資金でOpenAIは設立されました。
そして、このプラットフォームは研究やイノベーションを追求するために、お金に動かされない非営利団体としてスタートされました。
しかしOpenAIのチームはすぐに大きな問題に直面しました。それは人材集めです。優秀なエンジニアに数ある大手テック企業の中からOpenAIを選んでもらうためには高い報酬を提示する必要がありました。ソフトウェアエンジニアの報酬の中央値は90万ドル(約1億2300万円)ほどです。たった100人のエンジニアで、毎年9000万ドル(約123億円)を消費してしまうことになります。
さらにGoogleやAmazon、Appleなどの多くの企業が株で報酬を支払っていましたが、OpenAIは非営利団体だったため、報酬をすべて現金で支払わなければなりません。その結果、資金が急速に枯渇していったのです。
さらにOpenAIの重荷になっていたのは、給料だけではありません。一般的にAIの研究というのは、非常にコストがかかるのです。
例えばOpenAIが開発した、「Dota 2(対戦ゲーム)をプレイするAI」を見てみましょう。このボットを訓練するためには、AIに1万年分のシミュレーションをさせる必要がありました。これだけの年月をシミュレートするために、OpenAIは皮肉にもGoogleから借りた256個のNvidia GPUと128,000個のCPUコアを使用しなければなりませんでした。
そのため社内ではOpenAIを営利目的の事業とする案が出始めていました。ここで、非営利団体として維持したかったマスク氏とは意見が対立したのです。そしてマスク氏の退任後まもなく、マイクロソフトが10億ドルの出資を行い、OpenAIは営利企業へと移行しました。
当初はオープンソースの非営利団体として作られた。今はクローズドソースで営利目的になっている。私はOpenAIにオープンな出資はしていないし、役員でもないし、何らかのコントロールもしていない。(イーロン・マスク)
マスクがOpenAI設立を決断した理由のひとつは、「GoogleがAIの安全性に十分配慮していなかったから」だと言います。しかし、現在ChatGPTに出資しているマイクロソフトが、マスクのいう「AIの安全性」に配慮しているとは到底思えません。彼からすれば、OpenAIはAI開発のダークサイドに落ちてしまったのです。
しかしマイクロソフトはOpenAIに〝スーパーコンピューター〟という強力な武器を与えました。GPTの実用化に向けて28万5千個のCPUコアと1万個のGPUを持つスーパーコンピュータにアクセスできるようにしたのです。これは、全世界で5番目に強力なコンピュータで、OpenAIはこれで45TBのテキストデータを処理することができました。
このようなコンピュータにアクセスするには、お金を払えばいいというわけではありません。それこそマイクロソフトのような、巨大企業を味方につける必要があるのです。
「人類にとって有益な形でAIを発展させる」という高尚なミッションで始まったOpenAIですが、現実的に見ればAI開発は「お金がなければ始まらない」分野です。現在やマイクロソフトやGoogleがAI分野でしのぎを削っていますが、このような大企業の競争に、小さな会社が割って入ることは、現状では〝ほぼ不可能〟なのかもしれません。