情報統制が進むロシアでは現在、ほとんど全てのメディアが政府の検閲下に置かれています。この厳しい情勢の中で、ロシアのジャーナリストの発信源となっているのがYouTubeです。
なぜYouTubeがブロックされず、ジャーナリストの発信源となっているのかについて、国際情勢を探るジャーナリストのジョニー・ハリス氏が、公開しています。
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YouTubeがロシア検閲の「抜け穴」に
このリストはロシアにおいて、外国の団体から資金を受け取ったり、影響を受けたりしている「外国人工作員」のリストとされるものです。
リストに載せられた人物は、ツイートやYouTubeの動画に「このメッセージは、外国人エージェントの機能を果たす外国のマスメディアによって作成され、または配布されたものである」ということを明言しなければいけません。メッセージを入れないと政府から罰金を課せられるのです。
さらに、実質的にロシア政府はこのリストに自由に人物を登録できるため、政権が気に入らない人物はすぐに「外国人工作員」とされてしまいます。
これが、2012年にプーチン大統領が政権に復帰した後に制定された「外国の代理人」法です。この年以降、ロシアではデモ活動などを厳しく取り締まられ、情報統制はこれまでにないほど強まりました。
最初のターゲットとなったのはロシアのテレビ局です。ロシアにおいてテレビは重要な情報源で、人口の70%、つまり1億人もの人がテレビから情報を得ています。プーチン大統領は、ほとんど全てのテレビ局が政府の所有か影響を受けるようになるまで締め付け、事実上は完全に支配下におきました。
ロシアではいまや、新聞やラジオといったメディアのほぼ全てが、政府の検閲下に置かれています。しかし、ロシア政府が制御化に置けていないメディアが1つだけあります。それが「YouTube」です。
YouTubeに進出した代表的な先駆者がアレクセイ・ナワリヌイ氏。彼はプーチン大統領を批判し、そしてロシアの汚職を暴くなど、YouTube上でも活発に活動しました。
これに続き、ロシアのジャーナリスト達はYouTubeに参入し始めました。ユーリ・ダッド氏もその1人で、2022年にはロシアによるウクライナ侵攻とそれに関連する外交政策に反対する人物を含む、社会政治的なインタビューシリーズを展開しています。
テレビ出身のイリーナ・シークマン氏も、もともと司会者のような存在だったものの、YouTubeで活動しはじめました。彼女は「А поговорить?(そして語る?)」というチャンネルで、現在もロシア語での情報発信を続けています。
YouTubeは長いあいだジャーナリストの「安全地帯」でしたが、ロシアのウクライナ侵攻以来、状況は変わりました。ハリス氏は最も大きな変化として「陣営を明確にしなくては行けなくなった」ことを挙げています。
そのことを話さなければ、あなたはロシア軍やプーチンの側を選んだことになります。だから、たとえ無言であっても、それが自分の立場を示すことに変わりはないのです。
また、侵攻から1週間も経たないうちに、ロシア政府は一連の強権的な検閲法を押し通しました。ロシア政府やロシア軍に関する「虚偽の情報」を公表すると、15年の懲役刑に処されることになったのです。
これは書類上の「脅し」ではありません。実際に、これまでに4,000人以上のジャーナリストがこの新しい検閲法の下で訴追されており、ジャーナリストたちはロシア国外に逃亡せざるを得ませんでした。
しかしロシア政府は、それでもYouTubeを完全に閉鎖することには踏み切れていません。
YouTubeは、現代のロシアのメディア状況において、ゲームチェンジャー的な存在です。YouTubeは、ロシアでクレムリンの検閲から解放された言論の自由の最後の砦のような存在になりました。政府はYouTubeを閉鎖したがっていますが、大きな怒りを恐れて閉鎖できないでいます。
また、自分たちもYouTubeを公開し続けたいという動機もあるとハリス氏は指摘しています。同氏によれば、多くのロシアの宣伝担当者が、自分たちのメッセージを広めるためにこのプラットフォームを今も利用しているとのこと。
ロシアの視聴者向けの動画はほとんどが広告を剥奪されていますが、それでもジャーナリストはYouTubeを利用して情報発信を続けています。YouTubeは今でもまさに、ロシアにおける最後の自由な情報源となっているのです。