現在、NASAが国際宇宙ステーションで使用している宇宙服は、70年代に設計されたものです。NASAは何年も前から修理やメンテナンスを行ってきましたが、もう寿命が来ているようです。
そこでNASAは35億ドル(約4,700億円)を費やして「次世代宇宙服」を製造しています。この新しい宇宙服は、今までと何が違うのでしょうか?その詳細について、海外YouTubeチャンネル「CNBC」が解説しています。
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NASAの「次世代宇宙服」開発が難航した理由
NASAの監察総監室による2021年の報告書によると、NASAは老朽化した宇宙服に代わる次世代宇宙服の開発に10年以上と推定4億2千万ドル(約570億円)を費やしていたとのことです。しかし、運用できる宇宙服を作ることはできませんでした。
次世代宇宙服が実際に使用されるまでに、NASAは再設計と生産に10億ドル(約1,300億円)以上を費やしたと推定されます。
なぜ、NASAは新しい宇宙服を製造することができなかったのでしょうか?完成を妨げた要因は2つあります。
1つ目は、資金不足です。NASAは、宇宙服の資金を調達するために、他のプロジェクトからも資金を調達しなければなりませんでした。
2つ目は、目的がないことです。NASAのプロジェクトは、ここ数年、さまざまな政治的思惑の中で動いていました。科学技術の組織で必要なものは、目的とタイムラインです。
そこでNASAは、次世代宇宙服の製造とメンテナンスを民間企業と契約し、別のルートを歩むことにしました。その民間企業というのは、アクシオン・スペース社とコリンズ・エアロスペース・インダストリー・チームです。
NASAの現在の宇宙服は、EMU(extravehicular mobility unit)と呼ばれ、非常に複雑な構造になっています。宇宙服を構成する部品は、およそ1万8000点あり、その内部容積は小型冷蔵庫のサイズとほぼ同じです。
そんな宇宙服は、老朽化により長年、安全性の懸念が指摘されています。実際、国際宇宙ステーションの外で宇宙遊泳をしていたイタリア人宇宙飛行士のヘルメット内に水が入り、宇宙で溺れそうになるというトラブルが発生しています。その後、NASAは一時的にすべての宇宙遊泳を中止しました。
当然、次世代宇宙服はヘルメット内に水が入るという不具合が起こらないように設計されています。
また、サイズの問題もあります。2019年、NASAは、女性宇宙飛行士2人に適切なサイズの宇宙服を用意できませんでした。なぜなら、現在、NASAにはS、M、Lの3サイズしかないからです。そのため、国際宇宙ステーションでの初の女性だけの宇宙遊泳を中止せざるを得ませんでした。
新しい宇宙服では、より少ない部品ながら、なんと「1~99%の宇宙飛行士」にフィットするように設計されています。その結果、打ち上げに必要なハードウェアが30%削減され、打ち上げコストの削減と宇宙飛行士の訓練時間の短縮も可能になりました。このように、新しい宇宙服は同じような構造を持ちながら、より現代的なデザインになり、今までの問題を解消しているのです。
さらに、ヘルメットも大幅に改善され、より広い視界を提供します。また、太陽の放射やまぶしさから守るための保護バイザーも付いています。
そして、宇宙探索に欠かせない機動性と可動域も改善されています。今までの宇宙服では、立ち上がる時に体を回転させることができませんでしたが、次世代宇宙服はその動作を可能にしています。また、胴体の上部は調節可能で、宇宙飛行士にフィットします。ミッション中に調節することで、肩の怪我を防ぎ、快適に船外活動を行えるようになるでしょう。
宇宙服メーカーが考慮しなければならないのは、宇宙飛行士がミッションに費やす時間の長さです。長時間のミッションに対応するためには、メンテナンスのしやすさも重要です。今までの宇宙服は宇宙でメンテナンスをすることを想定していませんでした。
しかし次世代宇宙服は、モジュール方式とオープンアーキテクチャを採用し、現地でもメンテナンスができます。そのため、新しい技術が導入されると、それを宇宙服に取り入れることができるのです。
探査船外活動サービス契約(xEVA)のもと、NASAは2034年までにコリンズ社とアクシオン社、および多くの業界パートナーに最大35億ドル(約4,700億円)を提供することになっています。コリンズ社とアクシオン社は宇宙服の製造に加え、宇宙服を正常に保つためのメンテナンスや部品の提供、NASAのスタッフに対するトレーニングや運用サポートも行います。
NASAは2025年8月までにアルテミス月探査機用の宇宙服を納品するようアクシオン社に要請しています。また、コリンズ社の宇宙服も2026年までに納品される予定です。