マイクロソフトが運営している検索エンジン「Bing」は、Googleの検索エンジンに比べて劣っているという印象を持っているユーザーが多くいるかもしれません。実際、BingのシェアはGoogleのシェアと比較にならないほど少ないものです。
しかし、Bingのユーザー1人当たりの収益はGoogleの2倍です。なぜBingは、Googleより稼ぐことができるのでしょうか?その理由について、海外YouTubeチャンネル「Logically Answered」が解説しています。
*Category:
Googlよりも稼いでいるBingのビジネスモデルとは?
まずは、検索エンジンのシェアを確認してみましょう。統計サイト「Statcounter」によるとBingのシェアは3.03%とのことです。一方、Googleのシェアは92.9%もあります。
また、ブラウザでもbingを既定の検索エンジンとしているEdgeのシェアは、わずか4.46%しかありません。それに対して、Googleを既定の検索エンジンとしているchromeのシェアは65.4%もあります。人気という観点ではGoogleが優勢だということが分かります。
しかし、収益性については同じことは言えません。実は、ユーザー1人当たりの収益という点では、実はBingの方がGoogleよりも大幅に有利なのです。例えば、2022年、Bingは合計115億9000万ドル(約1.5兆円)相当の収入を得ました。つまり、シェア1%ごとに38.3億ドル(約5,200億円)も稼いでいるということです。
逆に、2022年のGoogleの検索ビジネスの売上は、1,625億ドル(約22兆円)です。全体の収益はBingを圧倒していますが、市場シェア1%あたりの収益はBingの半分以下の17.5億ドル(約2,300億円)にとどまっています。要するに、ユーザー1人当たりで見ると、BingはGoogleの2倍以上儲かっているということです。
BingはGoogleほど規模が大きくないものの、市場において非常に有利な部分を切り開くことができているように見えます。しかし、これは常にそうであったわけではありません。実際、10年ほど前、Bingは手も足も出ないほど赤字でした。マイクロソフトはBingで四半期ごとに10億ドル(約1,300億円)以上の損失を出し、最初の2年間だけで合計55億ドル(約7,400億円)もの損失を出していました。
サティア・ナデラ氏がCEOに就任した後、Bingは2015年末にようやく黒字化することになります。そしてそれ以降、ますます儲かるようになったのです。
では、Bingがどのように「失敗」から「Googleに対抗」できるようになったのでしょうか?まず、Bingは収益性を心配する前に、ユーザーベースを構築する必要がありました。なぜなら、2008年当時、IEの市場シェアは70%近くありましたが、2013年末には30%以下にまで急落していたからです。
マイクロソフトは、ユーザーにIEを使い続けるよう説得するだけでなく、Googleを捨ててBingを使い始めるよう説得しなければならなかったのです。しかし、これはあまりうまくいかず、Bingの初期の歴史における大損失につながりました。ただ、マイクロソフトはGoogleに屈するつもりはありませんでした。
そこで、マイクロソフトはユーザーベースを拡大する方法を模索し始めます。その結果、2つの重要な戦略にたどり着きました。
まずマイクロソフトは、Bingを利用するユーザーに報酬を支払うという戦略をとりました。これは、Bingのユーザーが毎日最初の10回検索すると、1回の検索につき5ポイントが支払われるというものです。この仕組みによって、ユーザーはBingをより利用するようになります。
そして、ポイントを貯め続けていくとレベル2にアップグレードされます。レベル2では、1日に最大250ポイントまで獲得できます。1ポイントはおよそ1/10セントなので、約25セント(約25円)の価値があります。Bingに乗り換えても億万長者にはなれませんが、小遣いが稼げるとして多くのユーザーに利用されるようになりました。
またマイクロソフトは、多くの企業と提携をするという戦略もとりました。有名なところでいうとBingは、Yahoo、AOL、DuckDuckGo、Lycos、Ecosiaなどと提携しています。そして、マイクロソフトが提携しているのは、検索プロバイダーだけではありません。数年前には、Amazonと提携し、eコマースの分野に参入しています。最近では、Shopifyと提携し、Bingにマーチャント・リスティングを導入しています。
さらに、マイクロソフトはBingを自社のすべての製品に統合しています。Cortana、Xbox、Microsoft Edge、Windows Search Barで検索する場合、デフォルトの検索エンジンを手動で変更しない限りは、Bingに誘導されます。
このようにして、BingはGoogleに勝るとも劣らないユーザーベースを獲得したのです。そして、いよいよマネタイズする時がきました。
Bingのユーザーベースの多くは、マイクロソフトの既存製品やパートナーシップによってもたらされています。
では、どうしてこのようなプラットフォームがGoogleよりも稼げるのでしょうか?その答えは、優れた人口統計学です。Bingを利用することによって毎月数ドルを稼いでいるユーザーは、おそらくクレジットカードのポイント、航空会社のポイント、ホテルのポイントに執着するような人でしょう。
しかし、そのような人の多くは、お金がないわけではありません。むしろ、最も裕福な人たちであり、広告ターゲットとして非常に価値のある人たちなのです。このような人たちは、保険や住宅ローンの広告、フィンテック製品の広告を最もよく見ています。実際、Bingでの検索全体の30~40%は、旅行、車、健康、金融に関連するものです。
一方、Google検索の上位は、ソーシャルメディアプラットフォーム、小売店、食品が占めています。つまり、Bingは単価の高い広告と相性がいいということです。
また、Bingのユーザー層は年齢層が高く、中央値が45歳であることにも注目すべきです。年齢が上がるにつれて豊かになる傾向があることを考えると、これはまたBingの勝利と言えるでしょう。
さらにBingは、より多くのデスクトップ・ユーザーを獲得し、利益を得ています。実はデスクトップユーザーは、より多くのサイトを訪問し、各サイトでより多くの時間を費やす傾向があるのです。
実際2020年には、平均的なモバイルユーザーが2.67のサイトを訪問したのに対し、平均的なデスクトップユーザーは3.95のサイトを訪問しています。また、平均的なモバイルユーザーは各サイトに160秒しか滞在しないのに対し、平均的なデスクトップユーザーは各サイトに351秒を費やします。このように、Bingは有利な人口層を持ち、より利益を得ているのです。
そして、忘れてはいけないのはチャットAI「ChatGPT」を統合した検索統合チャット機能の登場です。これによってBingは、これまでになく大きな注目を浴びています。
Microsoft(マイクロソフト)の検索エンジン「Bing」のモバイルアプリのダウンロード数は、2022年の1年間を通じてわずか80万件だったという。しかし、同社がOpenAI(オープンAI)のChatGPTをBingに統合すると発表してからの1週間で、人々はBingのアプリを75万回以上ダウンロードし、ピーク時には1日15万件以上を記録した。
サティア・ナデラ以前のマイクロソフトは、ユーザーに自社製品を使わせることに拘っていましたが、サティアはソフトな視点をマイクロソフトにもたらしました。要するに「自分たちのヒット商品と競合のヒット商品をいかに組み合わせて、絶対的なベスト商品を作るか」という考え方です。
Bingは魅力的なインセンティブを提供し、主要なパートナーシップを結ぶことで、かなり有利なユーザーベースを獲得し、赤字を好転させることができました。そして、今、多くのユーザーはChatGPTを搭載したBingに期待を寄せています。もしかすると10年後には、Bingは優れた検索エンジンであるだけでなく、より大きなシェアを持つ検索エンジンになっているかもしれません。