人間の脳細胞を活用したバイオ・コンピューティング技術について、ジョン・ホプキンス大学(JHU)の研究者を中心とする大規模な国際共同研究が行われています。
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「脳オルガノイド」を発展させる最先端のバイオ・コンピューティング
科学ジャーナル「Frontiers」に掲載された新しい論文では、最新のバイオ・コンピューティング技術に関する研究とそのロードマップが公開されています。
この研究の鍵となっているのは「脳オルガノイド」。脳オルガノイドとは、脳組織の一部を人工的に再現したものです。今回の研究は、この脳オルガノイドを3D構造にスケールアップし、バイオ・コンピューティングに活用することを目的としています。
論文では、人間の脳細胞の3D培養物(ブレイン・オルガノイド)とブレイン・マシン・インターフェース技術を用いたバイオ・コンピューティングの新しい分野を「オルガノイド・インテリジェンス(OI)」と呼んでいます。
JHUの研究者で論文の著者であるレナ・スミルノヴァ氏は、テックメディア「Motherboard」に対し「OIのビジョンは、生命科学、生物工学、コンピューターサイエンスの分野を発展させるために、生物システムの力を利用すること」だと述べています。
もし我々が、人間の脳が、情報の処理、学習等において、いかに効率的に動作するかを解析できれば、現在のコンピューターよりも速く、より効率的に動作するシステムを実現するために、それを翻訳してモデル化したいのです。
「Frontiers」に掲載された論文によれば、このバイオ・コンピューティングは「シリコンベースのコンピューティングやAIよりも高速で効率的、かつ強力であり、必要なエネルギーもほんのわずか」である可能性があるとのこと。
この研究の著者の一人であるJHUの研究者トーマス・ハートゥング氏はプレスリリースで「小さなチップにこれ以上トランジスタを詰め込むことができないため、シリコンコンピュータは物理的限界に達している」と指摘しています。
しかし、脳は全く異なる配線をしています。脳には約1000億のニューロンがあり、1015以上の接続点を通じてリンクしています。現在のシリコン技術と比べれば、莫大な力の差です。
プロジェクトに参加した研究者たちは以前、生物学と合成技術を組み合わせて、脳細胞にビデオゲームの遊び方を教えるという実験も行っています。この実験では、ブレイン・コンピュータ・インターフェイスを作り、神経細胞に簡単な電気的感覚入力とフィードバックを与えて、ゲームの「学習」を可能にする「DishBrainシステム」が作り出されました。
ただしこの分野に人工知能と同様、倫理的な懸念もあることは、研究者らも認めています。OIが倫理的、社会的に対応できるように発展するために、彼らは「倫理学者、研究者、一般市民からなる学際的かつ代表的なチームが倫理的問題を特定、議論、分析し、それらを将来の研究や作業に反映させる」という「組み込み倫理」アプローチを提案しています。
スミルノヴァ氏によれば、同研究では今後、学習に重要な「分子的、細胞的側面」を実証することによって、このシステムをさらに最適化し、長期学習のモデルを発展させていくとのこと。将来的には、従来のシリコンベースとは全く異なる真の「人工知能」が活躍するようになるかもしれません。