中世を舞台にしたゲームに登場する「豚の姿」は誤っていると、フリースケ・アカデミーの研究者であるペーター・アレクサンダー・ケルクホフ氏が指摘しています。中世の豚は、我々が知っている「ふくよか」「ずんぐりむっくり」「ピンク色」な姿ではなかったようです。中世の豚は現在の豚とどのように違ったのでしょうか?
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中世の豚の本当の姿とは?
「アサシン クリード」「A Plague Tale」「ウィッチャー」などの中世ヨーロッパを舞台にしたゲームの中に登場する豚は、檻の中で飼育され、ピンクで腹の出た姿をしています。しかし、ケルクホフ氏はこの姿や飼育方法は事実ではないと指摘します。
人間が生き物を家畜化すると、その生き物は時とともに変化し、私たちが選択的に繁殖させた特徴を反映するようになります。つまり、豚の見た目はもっと野性的だった可能性が高いのです。
参考になるのが、中世ヨーロッパ初期の法典。これによって、豚の飼育や1100年以前の農村社会で豚がどのように扱われていたのかについて、豊富な情報を得ることができます。
資料によると6世紀のメロヴィング朝の法典では、家長が25〜50頭の雌豚を率いていたそう。そして豚が草を食べている間、家長は見張りをします。この重要な仕事は、鍛冶屋と同じように法的な保護を受けることができたそうです。また、豚飼いは森の中の道を自由に通ることができるという特別な権利も持っていました。
さらに、ロンゴバルド朝の法典では、他人の森で豚に餌を与えることを犯罪とする法律も存在しました。このように、豚に関する情報はいくつも存在しており、ケルクホフ氏は、研究を通じて、中世ヨーロッパの豚の特徴を知ることができたといいます。その姿がこちら。
中世の家畜化された豚は、長い鼻を持ち、痩せた体型で、足の長い小型の生き物だったとのこと。また、背中はアーチ状になっていて、現代の豚とは異なっています。さらに、長く曲がった牙を持っていました。そして最も注目すべきは、中世の豚はピンク色ではなく、長い黒髪に覆われていたことです。そのため、外見はイノシシのようだったそうです。
育成方法も現代とは異なります。ゲームの世界では、中世の豚は豚小屋で飼育されているか、村の通りを徘徊しているのが普通です。しかし、本当は繁殖用の雌豚と子豚だけを農場に残し、その他は休耕田や森の中に放牧されることが多かったようです。子豚は3年かけてゆっくり育てられ、その後、他の豚と同様に放牧されていました。
そして12月になると、秋の収穫物を食べて太った豚の一部は、肉やベーコンとして食肉処理されていました。このように豚を森で放牧する習慣は、学術的にはパナージと呼ばれ、村落共同体の主要な権利の1つだったのです。
中世初期以降、利用できる森林が少なくなると、放し飼いから農場飼育へと移行し、豚は村に近いところで飼われるようになっていきます。その影響で、ゲームに登場する豚は農場で飼育されているのです。
しかし、ヨーロッパの多くの地域では、中世のパナージが現代まで残っていたため「中世の豚がずっと農場飼育であったというのは間違ったイメージなのです」とケルクホフ氏は語ります。
ケルクホフ氏は「ゲームとは、固定観念を打破し、学術的な洞察をより多くの人々に伝えるのにうってつけのメディアです。そのため、今後、ゲーム開発者は中世を舞台にしたとき、毛むくじゃらの豚をアニメーション化するべきです」と語っています。