日本やアメリカは、自動車が通る道路が中心に都市が作られた、いわゆる「車社会」です。しかし世界に目を向けると「自動車を使わない」コミュニティや都市というコンセプトは、より一般的になってきています。これについて、海外YouTubeチャンネル「CNBC」が解説しています。
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「自動車禁止」都市のメリットとは?
交通量が増え、大都市では渋滞が大きな問題になる中、人を中心とした地域やコミュニティを設計し、自動車ではなく公共交通機関を優先させたいと思うことは、当然のことのように思われます。
そして、高密度な場所では、できる限り歩行者にやさしい街づくりをするべきです。
最近の報告によると、2021年にアメリカで自動車にはねられ死亡した歩行者の数は約7,500人で、過去40年間で最多となったそうです。ニューヨークやサンフランシスコなどの都市では、より多くの通りを自動車禁止エリアにすることが、人気になっています。それは、また、ニューヨークの街を全米で最も歩行者、自転車に優しい街にすることでもあるのです。
この計画を成功させるためには、街における人間のあり方にもう一度価値を置く必要があります。10年の間にニューヨークでは、歩行者124人、自転車と原付バイク34人の死者を出しています。しかし、実はこの問題にはかなりシンプルな解決策があります。
交通事故が急増した2009年、市はヘラルドスクエアとタイムズスクエアの区間のすぐ横のブロードウェイを歩行者天国にしたのです。このような処置が有効な場所は、5つの行政区にたくさんあります。
当初、ここが歩行者天国になったとき、観光や消費活動が減少するのではと心配されました。なぜなら、このような都市で、歩行者天国という取り組みをすることが初めてだったからです。
しかし、歩行者数は15%ほど増えており、タイムズスクエアには今でも1日36万人が訪れています。また、歩行者天国にしたことで、わずか数年でタイムズスクエアでは40%、ヘラルドスクエアでは53%も歩行者事故が減少しています。
ニューヨークは特別な場所であり、タイムズ・スクエアは1つしかありません。そして、タイムズスクエアを毎日通る数十万人の歩行者が、より安全に大型広告を目にすることができるようになったのです。
この取り組みは、自動車からスペースを取り上げ、徒歩や自転車に乗せることで何ができるかを示す、非常に良い例となりました。
このコンセプトは、オランダでは「Autoluw」と呼ばれ、直訳すると「ほとんど車がない」という意味です。オランダには歩行者や自転車にやさしい広場が非常によく見られます。このオランダの都市計画環境が、今回のタイムズスクエアの変化のきっかけとなっています。
ニューヨークでこの変更が議論を呼んだように、デンマークでも同じことがおきました。
1962年にストロイエという通りでこのコンセプトが展開されたとき、コペンハーゲンの都市計画担当市長は殺害予告を受け、ボディガードを伴って移動しなければならなかったほど、物議を醸しました。
しかし、今ではヨーロッパで最も成功した歩行者天国の1つになっています。そして、国際的なインスピレーションの源にさえなっているのです。
コペンハーゲンやアムステルダムのような都市のほぼ自動車が通らないエリアでも、公共交通機関や緊急車両は道路を利用できるため、バスや緊急時の対応は非常に速くなります。
しかし、ニューヨークのようなアメリカの都市では、依然として自動車が優先されています。現在、マンハッタンの4分の1近くが道路と駐車場というクルマのためのスペースに割り当てられています。これはミッドタウン2つ分以上の広さです。そのため、車線は広く、歩道は小さくなっています。
もし、その交通量をすべて取り除くことができれば、何もない巨大なスペースが出現します。そして、そのスペースにアパートを建てたり、公園を作ったり、歩道を広げたり、レストランを作ったりすることができます。つまり、現在、車のために用意されているスペースで、いろいろなことができるということです。
アメリカでは、このコンセプトを検証しているプロジェクトがあります。アリゾナ州テンピにあるカルデサックという地区では、車の乗り入れができない地域を建設しています。
そこでは、店舗兼用E-Bikeガレージ、1,000台以上の自転車ラック、敷地内のEVカーシェア、ライドシェアのピックアップゾーンを備え、コミュニティの住人にとって、あらゆるニーズが短時間で解決できるようになっています。
また、配車サービスのLyft社と提携し、住民に割引を提供しています。さらに、地元の都市旅客鉄道にも接続されています。
この地区は2022年後半に住民に開放され、完成後は600戸以上の住宅が建設される予定です。この不動産開発業者は、これまでに2億円の不動産資本を調達しており、すでに全米の成長都市で次の地域づくりに着手しています。
ミシガン州マッキナック島やノースカロライナ州ボールドヘッドアイランドなど、車のないコミュニティや行楽地は他にもありますが、カルデサックは、車の使用を禁止することを明確に設計した、アメリカ初のコミュニティです。
「自動車禁止」というアイディアが注目されている根本には、若者たちが抱いている都市の現状に対する不満があります。若者たちは、歩きやすい街、交通の便がよい街を求めているのです。
ポール・スタウト氏のTikTokアカウント「Talking Cities」は、20万人以上のフォロワーを獲得しています。スタウト氏は、優れた都市デザイン、都市計画、大量輸送の利点を、主にZ世代に訴えています。
TikTokやYouTubeをはじめ、さまざまなソーシャルメディアにおいて、新たな都市計画の話題がここ2、3年で大きく広がっています。
若い世代は、自動車に代わる交通手段を求めることが多くなっています。このことは、さまざまなトレンドで見ることができます。
例えば、Z世代が運転免許を取得する割合にも変化がでています。1988年には77%だったのが、今では58%程度になっています。つまり、自転車、あるいは公共交通機関に頼ることが多くなっているということです。
しかし、公共交通機関は、都市によってはまだ信頼できないことがあります。例えば、バスは自家用車の渋滞に巻き込まれ遅延が発生するため、信頼性が低いといえます。もし、自家用車を減らすことができれば、バスはもっと速く走れるようになるでしょう。
また、ミッドタウンやロウアーマンハッタンの混雑を緩和するために、優先順位の見直しや車が入ってこれないエリアの導入を推し進める団体などもあります。
新型コロナウィルスが最初に蔓延したとき、世界中の道路や駐車場が、屋外でのショッピングや食事のためのスペースに変わりました。多くの場所で道路を横断したり、道の真ん中を歩いたりできるようになり、それは数カ月間続きました。
その結果、多くの人が車の交通量を減らす利点に気がつきました。そして、コロナ渦の初期には自転車が大流行しました。人々は自転車が安全な移動手段であると考えたのです。
日本においても、若者が車を持ちたがらない「車離れ」が進んでいます。現在ではガソリン車かHV車か、それとも電気自動車か、ということが議論されがちですが、大都市においてはそもそも「車をなくす」という選択肢もあり得るのかもしれません。