今までに「供給不足」という言葉を耳にしたことがあるはずです。ニュースでも取り上げられていますし、実際に体験された方も多いことでしょう。最近では、多くの日用品で入荷待ちや価格の高騰が発生しています。さらに悪いことに、事態は悪化の一途をたどっているように見えます。
供給不足が発生している原因について、海外YouTubeチャンネル「Logically Answered」が解説しています。
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世界的な「供給不足」は、なぜ発生しているのか?
例えばテスラでは、供給不足によって製造に大きな遅延が発生しています。モデル3の待ち時間は3カ月から6カ月に、モデルYは6ヶ月から9ヶ月に、モデルSは3カ月から6カ月に、モデルXは9カ月から12カ月に延長されています。そして、サイバートラックも発売されていません。
テスラは、この数ヶ月の間に2つの新しい工場を稼働したにも関わらず、第2四半期の生産台数は、第1四半期に比べて5万台近くも減少しているのです。
CEOのイーロン・マスクは「巨大な金鉱炉であるこの工場に、必要な部品が調達できていない」と述べています。こうした問題に直面しているのはテスラだけではありません。Appleでさえ、サプライチェーンの制約によって数十億ドルの影響を受けています。
現代、貨物輸送のネットワーク、トラック輸送のネットワーク、航空会社のネットワーク、そして通信のネットワークは、すべてかつてないほど高度になっています。そのため、このような問題は数カ月で解決できるのではないかと思う方もいるでしょう。
しかし、この問題が始まって2年、事態は悪化の一途をたどっています。供給不足の原因はどこにあるのでしょうか。
まず、最も明白な理由は、コロナ渦です。
◇ 【1】コロナ渦によるロックダウンの影響
世界の多くの地域では通常の生活が戻りつつありますが、サプライチェーン全体ではまだコロナ渦の影響が顕著に残っています。中国では上海のような大都市でさえ、定期的にロックダウンが実施されています。
我々が普段使っている商品の多くが中国で生産されていることを考えると、こうしたロックダウンがグローバル市場に影響を及ぼしていることは驚くことではありません。そして、心配しなければならないことは、ロックダウンだけではありません。
多くの国では、コロナに対して定期的な検査や厳しい検疫などを実施しています。つまり、安全を確保するためには、時間と手間がかかるということです。よって、生産と物流などの最大化という点で、より多くの摩擦が発生しています。
しかし、仮に検疫が無かったとしても、労働力不足は避けられません。パンデミック発生時、多くの企業は需要の減少に備え、生産を縮小し、工場を閉鎖し、多くの従業員を一時的に解雇しました。
ただ、需要は予想以上に早く回復しています。一部の業界では、人々が通常の生活に戻ることに興奮したため、需要がかつてないほど高まっています。
今の課題は、一度落としてしまった生産規模を、どのようにして元に戻すかということです。工場は、一晩で停止させることができても、一晩で元に戻すことはできないのです。
テスラの工場がその好例です。このような巨大工場は、稼働するために何年もかかります。そして、多くの会社と連携しています。
しかし、このパンデミックで多くの工場が閉鎖されました。巨大工場を動かすためには、サプライチェーン全体が再び稼働しなければならないのです。ただ、これらの工場や物流網を動かすための十分な労働力を確保することが非常に困難になっています。
これはパンデミック以前からの問題でしたが、パンデミックはこの問題をさらに深刻にしました。一時帰休や解雇を余儀なくされた製造業の従業員の多くは、より給料の良い新しい仕事をすでに行っているのです。
大規模なリストラによって、最も大きな打撃を受けた産業のひとつが製造業なのです。
現在、アメリカでは製造業の労働者が350万人不足しており、最悪の場合、このうち200万人が未就職になると予想されています。そのため、サプライチェーンの問題がすぐに解決されることはないでしょう。
製造業経営者の82%は、人手不足によって生産性を向上できず需要に応えられないと述べています。このままでは、この供給不足は今後数年間は容易に続く可能性があります。
また、不足しているのは製造業の労働者だけではありません。物流の面でも不足が見られます。
アメリカトラック協会は、パンデミック前のドライバー不足は約6万人で、現在は8万人まで不足が増加していると述べています。つまり、パンデミックによって、商品を製造する人の数が減っただけではなく、商品を配送する人の数も減っているということです。
◇ 【2】世界的なインフレーション
2つめの問題が、インフレです。原材料の価格は、パンデミック期間中に急騰し、今でもピーク時よりは落ち着いてきたものの、まだ道半ばです。
例えば、アルミニウムです。コロナ渦が始まる前、アルミニウムの価格は1トンあたり約1,700ドル(約22万円)でした。パンデミック開始時には、一時1,500ドル(約20万円)まで冷え込みましたが、2022年2月に4,000ドル(約53万円)近くまで爆発的に上昇しました。
その後、価格は2,400ドル(約32万円)まで戻ってきましたが、それでも以前に比べれば40%も高いのです。
同じようなことは、木材にも言えます。コロナ渦以前、木材の価格は一般的に1,000ボードフィートあたり400ドル(約5万円)ほどでした。その後、材木は250ドル(約3万円)まで暴落し、その後1,600ドル(約21万円)まで急騰しました。
現在は、600ドル(約8万円)ほどまで下がっていますが、それでも当初に比べれば60%以上高いです。
このような価格変動により、サプライチェーンの関係者は、自分たちのビジネスが採算割れになってはいけないと、非常に慎重になっています。
例えば、あなたがiPhoneのシャーシを製造している会社を持っているとします。あなたはすでに、ある価格でX個のシャーシを作ることをAppleと約束していたとします。しかし、この約束をしてから、アルミニウムの価格が2倍になり、あなたのビジネスは採算が取れなくなりました。
このとき、あなたには2つの選択肢があります。まずは、Appleに出向き、材料費の高騰を理由に価格の再交渉を行うという選択です。交渉には数週間、数ヶ月の時間がかかるでしょう。
あるいは、アルミニウムの価格が下がるのを待って、生産量を増やすという選択です。
一方、例えばサムスンと新たに製造契約を結ぼうとしている場合、価格変動から身を守るために、おそらく高い価格を提示することになるでしょう。
サムスンはその高値を聞くと、製造契約を結ぶ前にもっと他社から見積もりを取りたいと思うはずです。結果として、需要を満たすためのプロセスを遅らせることになります。
また、これらの企業のほとんどは、1社のサプライヤーだけと取引をしているわけではないことを、念頭に置いておいてください。
Appleは200社以上のサプライヤーを抱えています。つまり、Appleはこの同じ問題を200回以上同時にトラブルシューティングしなければならないということです。
これがいかに供給不足の悪夢に早変わりするかは、説明するまでもないでしょう。さらに悪いことに、Appleの問題は、すべてのサプライヤーを取り込んだだけでは解決しません。
今度は、完成した製品を実際に顧客まで輸送することを心配しなければならないのです。現在ガソリンの価格は高騰していて、原油は1バレルあたり100ドル(約13,000円)ほどになっています。ほとんどの人が、法外なガソリン代に直面していることでしょう。
企業も値上げに踏み切ればいいのですが、不況の恐怖が蔓延する中、消費者はこれまで以上に価格に敏感になっています。前期のNetflixの加入者数が100万人近く減少しており、消費者が出費を抑えていることは間違いないはずです。
企業にとって一番避けたいことは、値上げをして、さらに顧客を失うことです。その結果、多くの企業は、値上げによって顧客が離れる可能性を取るよりも、より安い材料を調達するために顧客を待たせる方が良いと判断したのです。
このような考え方は、決して事態を好転させるものではありません。供給不足の原因は、まだ他にもあります。