Appleは「iPhone 6s」から搭載していた「3D Touch(3Dタッチ)」。ユーザーからは評価の高かったこの機能ですが、「iPhone 11」シリーズでは廃止しました。この理由について、Appleに詳しいYouTubeチャンネル「Apple Explained」が解説しています。
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AppleがiPhoneの「3Dタッチ」機能を廃止した理由
3D Touchは、2015年の「iPhone 6s」でデビューし、Appleはマルチタッチと同じくらい革命的だと宣伝しました。3D Touchの特徴は、iPhoneの操作の幅を大きく増やせるという点です。
初代iPhoneが登場した後、マルチタッチがどれだけの影響力を持つに至ったかを知れば、Appleの主張がいかに重要であったかが理解できるはずです。ところが、そんな革新的な機能であったにも関わらず、3D TouchはiPhone 11で廃止されてしまいました。
しかし、3D Touchに欠陥があったわけではありません。機能自体は非常に好評で、廃止されたあとにも復活を望むユーザーは少なくありませんでした。1590万人を超える登録者を抱えるテック界の大物YouTuber、マーカス・ブラウンリー氏も「3Dタッチは最高だった」と述べています。
It took a little bit of space away from the battery and it was never really embraced by every developer in every app, but still… Hard same. 3D touch was awesome. https://t.co/Rr4R1qpsVc
— Marques Brownlee (@MKBHD) December 30, 2021
3D Touchは、iPhoneのバックライトに静電容量式センサーを組み込むことで実現されています。カバーガラスとバックライトの間のわずかな距離を、ディスプレイが測定することで、ユーザーに「グッと押し込む」という新たな操作を提供したのです。
さらに3D Touchのために、標準的な携帯電話の振動モーターよりも短く、より正確な触覚振動とタップを実現する「Taptic Engine」と呼ばれる部品も搭載されました。
「iPhone 6s」での初登場時、Appleは、3D Touchを使えば、電子メールをすばやく表示したり、カレンダーのイベントをプレビューしたり、フライトの詳細を確認したり、他のアプリケーションにドラッグしたり、別のウィンドウに移動したりすることができるとアピールしていました。
この機能によって、iOSのナビゲーションが、より速く、より楽になりました。このような新機能を最大限に活かすためには、アプリごとに最適化させる必要があります。
しかし、これが1つ目の落とし穴でした。Appleは自分たちのアプリしかコントロールできなかったのです。そのため、3D Touchに対応するサードパーティ製アプリはあまり多くなりませんでした。
また、iPhoneの見た目に変化がなかったのも問題でした。3D Touchは外観で確認できる機能ではないため、消費者目線では目立っていませんでした。
そして3D Touchは、便利ではあれど「デバイスを使うための必須機能」ではありません。iPhoneユーザーは、この機能を無視しても、これまで通りにiPhoneを使い続けることができたのです。
Appleはこの問題を理解していたからこそ「iPhone 6s」を発売する際に、ユーザーに3D Touchについての宣伝を大々的に行いました。
Appleは3D Touchを紹介するテレビ広告を打っただけではなく、一部のAppleストアにスクリーンを内蔵した巨大なテーブルを設置しました。各テーブルには、2列のiPhoneが展示され、ユーザーはそれを触ることができます。
そして、3D Touchを利用すると、iPhoneのディスプレイからテーブルの下にある大きなスクリーンに波紋が広がります。波紋の大きさは、iPhoneのディスプレイを押す強さによって決まります。その力の強さは、3Dタッチで計測されていました。
しかし、このAppleの取り組みは「iPhone 6s」の3D Touchに注目が集まるきっかけにはなったかもしれませんが、それでも不十分でした。
Appleがこの機能を大々的に宣伝したのは「iPhone 6s」のときだけだったため、「iPhone 7」「8」「X」「XS」により新しい機能が搭載されるたびに、3D Touchの影が薄れていったのです。
さらに、3D Touchの存在を知っていたユーザーの多くも、その機能を使う機会は減っていきました。なぜなら、アプリによって3D Touchが使えるものと、使えないものがあったからです。
また、対応アプリがあったとしても、そのアプリがどのようなショートカットを提供しているのか、それを使う価値があるのか、ユーザーは判断しなければなりませんでした。
そして、最後の問題が、コストです。Appleの元上級副社長のフィル・シラー氏は「iPhone 6s」が発表された当初「3D Touchを実現するディスプレイを作るのは、信じられないほど難しい」と語っています。
そして「もしユーザーが、3D Touchを利用しなければ、丸1年、いや2年のエンジニアリングと膨大なコスト、そして製造への投資を無駄にすることになる」とも述べていました。
しかし、悲しいことに、3D Touchはまさにそのような状態になってしまったのです。一部のユーザーは、日常的に3D Touchを愛用していました。しかし多くのユーザーは、その存在を知らなかったり、忘れてしまったりしていたのです。
そしてついにAppleは、「iPhone 11」で3D Touchを廃止します。ユーザーからは惜しむ声もありましたが、かかるコストとその普及率を考えれば、3D Touchを廃止したAppleの判断は正しかったといえるでしょう。
一部のユーザーの間では長い間好評だった機能をiPhoneから消してしまうというのは、容易にできる判断ではありません。1つのギミックを廃して、シンプルに徹するというデザイン哲学を完徹するAppleの姿勢には、凄みを感じさせられます。