AppBank の主任です。
iPhone 5s と言えば指紋認証機能「Touch ID」に注目が集まっていますが、地味ながら大きな可能性を秘めているパーツがあります。
それは「M7モーション・コプロセッサ」です。iPhone の「動き」に関するデータを処理し、アプリから利用できるようにします。
(アップル – イベント – Special Event 2013年9月より)
しかし、「動き」に関するデータは A6 プロセッサでも処理できていました。例えば、地図アプリで使うコンパス・歩数計アプリなどは問題なく使えています。
では、なぜ iPhone 5s で「M7」を搭載し、これらのデータを処理させるようになったのでしょうか?
今回は iPhone 5s に「M7」が搭載された理由、「M7」が持つ可能性をご紹介します。
「コプロセッサ」とは?
英語では「coprocessor」と書きますが、あえて日本語に訳すと「副プロセッサ」。メインのプロセッサを助けるパーツになります。
iPhone/iPad の場合、メインとなるのは「A」が付くプロセッサ。iPhone 5 なら A6、iPhone 5s なら A7 プロセッサと呼ばれています。
iPhone 5s に搭載されている「M7 コプロセッサ」は、この A7 プロセッサを助ける役目を持っています。
M7コプロセッサの役割
Apple によると、M7 コプロセッサは加速度センサー・ジャイロスコープ・電子コンパスと連携しています。
加速度センサーは iPhone を上下左右に動かした瞬間に生じる「G」を計測できます。
ジャイロスコープは傾き・角度、より具体的には iPhone の上下を軸とする回転(ヨー)・左右を軸とする回転(ピッチ)・前後を軸とする回転(ロール)を計測します。
電子コンパスはその名の通り、方角を計測できます。
M7 の役割は「センサーが捉えた情報を iOS・アプリが利用できるよう、常に処理すること」です。
適所適材でバッテリ消費を抑える
通常、これらのセンサーから受け取るのは信号で、これをアプリが扱えるようにデータに変換する処理が必要です。プロセッサがこの作業を行います。
しかし、これらの処理は比較的簡単なので、高性能なプロセッサでは処理能力を持て余すだけでなく、電力を浪費するのでバッテリ稼働時間を縮めます。
特に A7 プロセッサは最大時の性能が、iPhone 5 搭載の A6 プロセッサの2倍と言われており、消費電力も増えていると考えられます。
そこで Apple は、これらの処理を専門で行う M7 を iPhone 5s に搭載することにしたと考えられます。
M7コプロセッサの正体
最新の iPhone には最新のパーツが搭載されている、と思いがちですが、M7 に使われているのは2010年に発表された省電力チップと見られています。
先日公開された iPhone 5s 分解レポートによると、NXP 社の LPC1800 シリーズのチップが使われているようです。
(画像引用元:Inside the iPhone 5s | Chipworks Blog)
ちなみに最大動作速度は 150MHz。この数字が消費電力・性能の大小を決める訳ではありませんが、A7 プロセッサは最大 1.3GHz で動作します。
iOSと連携してさらに消費電力を節約
Apple によると、M7 コプロセッサは常時 iPhone の動きをチェックしてユーザーの状態、「止まっている・走っている・歩いている・運転している」を識別できます。
例えば 3つのセンサーの情報から iPhone がしばらく動いていないと判断できる場合には、ネットワークをチェックする間隔を広げてバッテリを温存します。
さらに自動車で移動中と判断すれば、沿道の Wi-Fi を検索・接続することのないように iOS の設定を変更するようです。
したがって M7 は iPhone に搭載されている iOS と深い部分で連携し、状況に応じてバッテリを節約することもできるようです。
M7コプロセッサで広がる「可能性」
M7 はセンサーの情報を常に処理しているため、これを活用しない手はありません。
Apple は M7 のデータを活かせるように、開発者向けにアプリからデータを利用する為に必要な命令集「CoreMotion」を公開しています。
例えば、以下のような用途が考えられます。
いずれの用途も iPhone 5s 以外の機種で実現可能ですが、iPhone 5s なら省電力で行える・長時間利用できる点に魅力があります。
活動量計アプリ
Apple は iPhone 5s 発表時に「Nike+ Move」を紹介しています。M7 が処理したデータを使い、1日の活動量を記録できます。
(アップル – イベント – Special Event 2013年9月より)
こうしたフィットネス・健康維持アプリは今後増えるかもしれません。
カーナビアプリの精度向上・消費電力の削減
カーナビの多くは GPS のほかにジャイロスコープ・加速度センサーも使って、現在位置の測定精度を上げています。これと同じことが iPhone 5s でも可能と思われます。
実現すれば GPS を使って現在地を測定する頻度を減らせそうです。GPS の利用頻度が減らせれば、バッテリの消費を抑えることができます。
屋内ナビ
GPS が利用できない場所でも、加速度センサー・ジャイロスコープ・電子コンパスを使い、最後の位置情報を元にして現在地を測定できるかもしれません。
ジャイロのみを使って測定・ナビゲーションする「ジャイロ航法」は、航空機・ロケットなどで使われています。
具体的な場所では「建物内・地下などの屋内」が考えられます。先日ご紹介した iOS 7 の機能 iBeacon と組み合わせることで、より精度が向上しそうです。
参考(順不同)
- iPhone’s M7 motion processor to integrate with Maps as Apple develops indoor mapping, public transit | 9to5Mac
- AnandTech | The iPhone 5s Review
- Apple's new M7 motion coprocessor to empower new breed of fitness apps – AppleInsider
- Inside the iPhone 5s | Chipworks Blog
- iPhone 5s Includes New ‘M7’ Motion Coprocessor for Health and Fitness Tracking – Mac Rumors
- NXP、業界最高のARM Cortex-M3パフォーマンスを実現する150 MHz MCU 「LPC1800」を発表 :: NXP Semiconductors
・開発: AppBank ・掲載時の価格: 無料 ・カテゴリ: 仕事効率化 ・容量: 4.3 MB ・バージョン: 1.0.14 |