iPad の液晶画面を保護するカバーガラスには強化ガラスが採用されています。高い耐久性と美しい光沢、さらに指がスムーズに動く滑らかな感触を兼ね備えています。
そんなカバーガラスが iPad3 ではより丈夫になるというのです。噂によれば、米コーニング社が開発した Gorilla Glass 2 を採用するという話です。
しかし、現在の iPad2 には旭硝子の Dragontrail が採用されているという噂です。噂がすべて正しいとすれば、なぜ Gorilla Glass 2 に切り替わるのかが気になります。
そこで今回は、強化ガラスの機能と特徴をご紹介しながら、Dragontrail と Gorilla Glass 2 を比較し、どちらが iPad3 に搭載される可能性が高いかを考えます。
※現時点で入手できる情報を元に推測した内容です。実際の iPad3 の仕様とは異なる場合があります。あらかじめこの点をご了承の上、お読み頂けると幸いです。
※上に掲載しているものは iPad2 の写真です。
考えられる採用理由
カバーガラスは iPad の中で最も使われ、最も力の掛かる部分です。よって、衝撃や傷に強いガラスでなければなりません。
さらに厚みも重要です。ガラスは厚いほど重いのが一般的で、iPad の重量を増やさない・軽くするには、薄くて丈夫なガラスが必要です。
また、iPad の場合は製品の半面を、iPhone 4S の場合は両面を占めるパーツなので、美しい光沢があり、ゴミなどが混ざっていない、無垢なガラスでなければなりません。
そういった条件を満たすのはタブレット端末やスマートフォン向けに開発された強化ガラス、中でも品質が高く、生産設備も整った製品だけです。
そこで、現在市場に出回っている製品でそうした条件を満たすのが旭硝子の Dragontrail と米コーニング社の Gorilla Glass 2 なのです。
これが iPad3 に Dragontrail や Gorilla Glass 2 が採用される可能性がある理由です。
なぜガラスは割れるのか?
そもそもガラスはなぜ割れるのでしょうか。これを考えることで、なぜ Dragontrail や Gorilla Glass 2 が従来の強化ガラスよりも丈夫なのかが分かります。
製造工程でガラスには目に見えないほどの小さな傷が生じます。そして、この傷には常に広がろうとする力があり、ここに衝撃が加わるとこの力はさらに強くなります。
その力が一定以上になると耐えられなくなって、ガラスは割れます。
これがプラスチックや金属のように常温でも変形するのであれば割れにくくなりますが、ガラスの「硬い」「形が変わらない」という特性が失われるデメリットもあります。
強化ガラスは傷が広がる力を抑えるガラス
では、強化ガラスとは何なのでしょうか。それは、先程の「傷が広がろうとする力」を別の力で押さえ込もうとする機能を、一般品よりも高めたガラスです。
例えば風冷強化ガラスは、ガラスを熱してから風を当てることで表面を先に冷やします。これで表面は縮みますが、内部は温度が高いので膨張しようとします。
ガラスが完全に冷えた時にもこの力の差は残ったままなので、目には見えませんが表面には縮もうとする力が掛かっています。これが傷を広げようとする力を押さえるのです。
しかし、ご存知の方も多いように、一点に力が集中すると強化ガラスは簡単に割れてしまいます。また、面全体に一定以上の力が掛かっても簡単に割れてしまいます。
なぜなら、先に述べたようにガラスは基本的に変形しにくい素材だからです。強化ガラスは単に傷が広がろうとする力を押さえる力が強いだけで、そこは変わりません。
iPhone 4 のボディが割れた理由
丈夫だと言われていた iPhone 4 が落下の衝撃によって割れてしまうのは、この表面に使われていたガラスが強化ガラスだったからです。
ですから、落下場所に小石があったり、突起が少しあるだけでも致命的です。
全体にヒビが入るのも強化ガラスの特徴です。普通のガラスは割れると尖った破片になりますが、強化ガラスの場合はなるべく粉々になるように設計されています。
ちなみに iPhone 4 に採用されていた強化ガラスは初代 Gorilla Glass であったと、前 Apple CEO スティーブ・ジョブス氏公認の伝記の中で伝えられています。
Dragontrail や Gorilla Glass 2 は何が違うのか?
初代 Gorilla Glass は落下の衝撃に弱かったのに対し、Dragontrail や Gorilla Glass 2 はどちらも派手な衝撃テストを行っています。
Dragontrail
Gorilla Glass 2
以下のリンク先でご覧ください。
動画:コーニング「ゴリラガラス2」強度テストデモ — Engadget Japanese
特に初代 Gorilla Glass と Gorilla Glass 2 には、どこに違いがあるのでしょうか?
まず、発表されている情報を調べてみると初代 Gorilla Glass と Dragontrail・Gorilla Glass 2 はビッカース硬さが違いました。これは工業製品の硬さを示す尺度です。
なんと、丈夫さを売りにしている Dragontrail や Gorilla Glass 2 のビッカース硬さは、初代 Gorilla Glass よりも低いのです!
普通のガラス・強化ガラスについて「硬いが変形しにくいから割れてしまう」とご説明しましたが、この点を解消しているのが Dragontrail や Gorilla Glass 2 だと思われます。
つまり、ガラスでありながら常温でも変形する、適度な柔軟性があると考えられます。推測なのは、調査を行ってもこの点について明確な答えが得られなかったからです。
Dragontrail に至っては非常に柔軟性があるガラスであることが分かると思います。
iPad3 に搭載されるのは Dragontrail? Gorilla Glass 2?
公開されている情報を総合すると、シェアでは米コーニング社の方が勝っています。しかし、記事冒頭でも述べたように iPad 2 には Dragontrail が採用されているという噂もあります。ですから、生産体制や実績については五分五分と言えます。
また、Gorilla Glass 2 は「初代 Gorilla Glass より 20% 薄くても強度は同じ」という特徴はありますが、生産できるガラスの厚みでは Dragontrail と同じです。よって、強化ガラスの重さもほぼ同じでしょう。
スペックから、どちらが iPad3 に搭載される可能性が高いかは断言できません。
iPad2 のカバーガラスが Dragontrail だという噂が事実であるとすれば、スペックとしては Gorilla Glass 2 とほぼ同等の Dragontrail が引き続き採用されるかもしれません。
この他の強化ガラス
ちなみに Dragontrail や Gorilla Glass 2 以外にも、タブレット端末やスマートフォン向けのカバーガラス用強化ガラスは製品化されています。
例えば日本電気硝子の CX-01 という製品。さらにはショット社の Xensation Cover などが挙げられます。
画面を衝撃から守る、強靭なガラスの登場です。 | 日本電気硝子
詳しい数値が公開されていた Xensation Cover は、スペックからすると Dragontrail や Gorilla Glass 2 とは大差がありませんでした。
iPad3 には新素材が採用される?
現在発表されている強化ガラスでは「丈夫さ」「軽さ」という点で iPad2 とあまり変わらない可能性が出てきました。(iPad2 に Dragontrail が採用されていると仮定した場合)
そこで考えられるのが未発表の新素材を使ったカバー、あるいはさらに既存の素材を改良したカバーガラスです。しかし、Gorilla Glass 2 の発表は今年に入ってからなので、既存の素材を改良したカバーガラスが起用される可能性は少ないでしょう。
となると、まったく新しい強化ガラス、または光沢や耐久性といった必要条件を満たすプラスチックカバーが採用されるのでしょうか。
こればかりは iPad3 の発表を待たないと分かりません。
iPhone 5 への搭載にも期待
iPad3 のカバーガラスが衝撃に強くなることも期待したいですが、やはり本命は iPhone 5 ではないでしょうか。iPhone ほど日常的に持ち歩き、それに比例して落とす確率も高いものはありません。
今後は iPhone 5 の噂にも注目です。
参考(順不同)
・ビッカース硬さ – Wikipedia
・ヤング率 – Wikipedia
・CORNING® GORILLA® GLASS
・Xensation™ Cover | SCHOTT AG
・アップル – iPhone 4S – あらゆるものを鮮やかに映し出すRetinaディスプレイ。
・画面を衝撃から守る、強靭なガラスの登場です。 | 日本電気硝子
・日本板硝子テクノリサーチ|Glass University「ガラスの強度と破壊」
・ガラスの歪と歪の測定法-8/(株)ルケオ
・AGC Dragontrail™
・AGC旭硝子|“SMART MOBILITY CITY 2011”AGC旭硝子ブース特設サイト
・【PC Watch】 旭硝子、スマートフォンやタブレット端末向けの強化ガラス「Dragontrail」
・動画:コーニング「ゴリラガラス2」強度テストデモ — Engadget Japanese
・伝記スティーブ・ジョブズをとっても興味深く読む方法 – ザリガニが見ていた…。
・Corning Gorilla Glass Technical Materials(PDF)
・やさしいニューガラス講座 割れないガラスを目指して(国分 可紀 )(PDF)
・特集I フラットディスプレイ 4) ガラス強度と強化法(松岡 純)(PDF)