目に入る美しさ、文字の読みやすさ、そして非常に使いやすいUIで群を抜く青空文庫リーダーアプリ、「豊平文庫」開発にかかわるお話をうかがいました。
豊平文庫 の開発社快技庵の高橋政明代表は、長年Mac向けのソフトを開発してきており、(こちらのMac関連開発年表に輝かしい経歴があります。)、現在はMosaの理事も務めています。
青空文庫アプリの開発とはどういうことか、また高橋氏ならではのこだわりが伝わればと思います。
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豊平文庫開発者インタビュー「機能比較表的な競争は目指さない」iPhoneのための青空文庫ビューア。後編
最初に、長年Mac界にいる高橋氏に「iPhoneが出てからMac界に変化はありましたか?」と尋ねたところ、iPhoneが出てからMac界隈も大きく変わってきていて、Mac向けソフトの開発からiPhone向けソフトへ需要も供給もシフトしてきている。iPhone開発者向けセミナーも増えていると思うとおっしゃっていました。
豊平文庫ができるまで
青空文庫アプリの開発は「想定していたよりもずっと時間がかかった」そうで、予定日より1ヶ月遅れてリリースすることになりました。
青空文庫は、著作権の消滅した作品または著作者が「いいよ」と認めた作品を主にテキストデータに収めていくというプロジェクトで、「利用に対価を求めない」ことが特徴です。現在8000点以上が収録されています。豊平文庫はそのテキストデータを本のように表示すること、そして快い使い心地をコンセプトとして開発されました。
テキストを本のように表示することとは、ただテキストを縦に並べればよいわけでなく、挿絵にルビ(ふりがな)もありますし、くの字のような現在あまり使われていない日本語の表示にも対応することになります。
組み立て方は一つの文字配置ルーチンに、作品ごとの例外処理を加えていくという地道なものになります。最初は「注文の多い料理店」を読みながら開発を初めました。そしてそのルーチンを別の作品に対応させてみると、段落とページのおさまりが良くないことに気付きます。高橋氏は「本と同じように」見せるために、表示の決まりを拡張させていくことになりました。ずっと「例外処理をしていた」そうです。
青空文庫のデータは多くのボランティアの方が入力してくれているので、どうしてもゆらぎができてしまいます。われわれ読者にとってはそれが味にもなるのですが、開発側では入校者の注に一つずつ対応し、うまく表示できるか確認していくことになります。
ソフトとしてリリースできる水準まで調節するまでに、本当に時間がかかったそうです。さすがの高橋氏も全ての作品を読むことはできないので「今でも例外処理が必要な作品が残っている。読んでいる作品で表示してほしい箇所があれば個別に連絡してほしい」とのことです。青空文庫アプリの開発は大変です。
豊平文庫ができてから
やっとリリースした豊平文庫、わかりやすく美しいUIを評価する声も多く、支持を集めていきました。しかし、ソフトのリリース後にも表示の改善作業は続きます。JIS補助漢字、第三水準第四水準への対応、他にも漢字コードの存在する作品をみつけては表示していくという(例、この字にくさかんむりという注意書きへの対応など)、作品別に「印刷物に近づける」という地道な作業の傍ら、新機能の追加、パフォーマンス改善をしていました。
豊平文庫のサポートサイトも解説し利用者のフィードバックに応えていきました。(こちらの豊平文庫のサイトは氏が一人で更新している と知った時には驚きました。iPhoneアプリのインストールの仕方までもが載っています。)
iPhoneのソフトウェアの売り上げはAppStoreのランキングに大きく左右されます。「同じ青空文庫リーダーだったら、人はランキングが上にある物を迷わず買うし、比較するにもレビュー欄を本当に重視する」と高橋氏。
AppStoreのレビュー欄は購入者なら誰でも書き込むことができます。「これだからダメ。星ひとつ」というたった一つの書き込みによって、順位ががくんと下がったのを経験し、本当に落ち込んだそうです。そちらには、すぐに対応したたのですが、書き込みは今でも残っています。
「要望・不具合は直接自分に伝えて欲しい。全てに対応するつもりでいるし、技術上対応不可能なものについては理解していただけるよう説明したい。」とおっしゃっていました。
リリース後にはうれしいハプニングもありました。全国のアップルストアのiPhone/iPod Touchに豊平文庫がインストールされて展示されることになったのです。自分の作ったアップル製品向けソフトが、そのアップルのお店で展示されるのです。ましてや、長くMacと付き合ってきた高橋氏、喜びもひとしおだったと思います。
高橋氏、「青空文庫という影響の強いプラットフォームだから、ここまで支持してもらえたと思っている。本当に感謝している。これからも青空文庫をさらに気持ち良く読んでもらえるように改善していきたい。」
次回は、豊平文庫の現在と、青空文庫アプリの宿命?!完成が見えない豊平文庫のお話、そしてMac界と深く長く関わってきた、高橋氏の考えるiPhoneアプリ開発についてお伝えします。