待望と言っても過言ではない iPad mini の新モデルが先月発表されました。
何より期待されているのがディスプレイ。Apple が「Retina Display」と呼ぶ、従来品に比べて高精細な表現が可能なディスプレイが搭載されています。
iPhone/iPad ではすっかりお馴染となった Retina Display ですが、なぜ iPad mini への搭載は遅れたのでしょうか。
今回は「Retina Display とは何か」をご紹介しつつ、その長所・短所から iPad mini への搭載が遅れた理由を考えます。
そもそも「Retina」とは?
英語で「Retina」とは、眼球に含まれる「網膜」を意味する単語です。網膜は光を電気信号に変換するパーツで、見たものを神経を通じて脳に伝える役目を持っています。
そのため Apple は「Retina Display」を、一般的な電話を持つ距離では人の目で1つ1つのピクセルが区別できないほど高精細なディスプレイと表現しています。
なぜ、1つ1つのピクセル(画素)が区別できないほど高精細なのでしょうか?
Retina Displayが高精細である理由
理由その1:高解像度でピクセル密度が高い
そもそも「ピクセル」とはディスプレイで何かを表示する時の最小単位です。このピクセルが大量に連なり、様々な色で表示されることで文字・写真となります。
表現に使うピクセルの数が多いほど「解像度が高い」と言います。例えば、高解像度の写真なら拡大した時に細部まで確認できますが、低解像度の写真では困難です。
Retina Display は高解像度ながら「ピクセル密度」が高いことも特徴です。
密度はディスプレイの大きさに対し、どれくらいの数のピクセルが表示できるかで決まります。同じサイズでピクセル数が多いと高密度、少ないと低密度です。
そして密度が高いほど、ピクセルそのもののサイズは小さくなり、人の目には識別しにくくなります。
これが Retina Display が「1つ1つのピクセルが区別できないほど高精細」と表現される理由の1つです。
ピクセル密度を表す単位には「ppi」があり、1インチ当たりのピクセル数を表します。以下は歴代 iPhone・iPad のピクセル密度・解像度をまとめた表です。
機種 | ピクセル密度 | 解像度 |
iPhone 3G/3Gs | 163ppi | 480×320ピクセル |
iPhone 4/4s | 326ppi | 960×640ピクセル |
iPhone 5/5c/5s | 1,136×640ピクセル |
機種 | ピクセル密度 | 解像度 |
初代iPad・iPad 2 | 132ppi | 1,024×768ピクセル |
第3世代/第4世代iPad・iPad Air | 264ppi | 2,048×1,536ピクセル |
初代iPad mini | 163ppi | 1,024×768ピクセル |
iPad mini Retinaディスプレイモデル | 326ppi | 2,048×1,536ピクセル |
理由その2:表示の大きさは従来と同じ
ディスプレイの解像度が高くなると通常は表示が小さくなります。ボタンの表示に使うピクセルの数はあらかじめ決められているからです。
iPhone・iPad では、ディスプレイの縦と横のピクセル数がそれぞれ従来の2倍になっていますが、ボタンなどの表示に使うピクセル数も縦横それぞれ2倍に増やしています。
これで従来と同じ大きさでボタンなどが表示されますが、これでは2倍に拡大表示することになるので表示は荒くなってしまいます。
そこで iOS では、表示に使うボタンなどのデータを高解像度化しました。こうすることで表示に使うピクセル数を増やしても表示は荒くなりません。
高解像度化したことで、より細かな表現も可能になりました。例えばグラデーションを表現したい場合、色の変化を詳しく表現できます。
なぜiPad miniへの搭載は遅れたのか?
ご紹介してきたように、Retina Display はディスプレイのピクセル密度向上と表示するデータの高解像度化によって高精細な表現を可能にしています。
これは要求される処理能力が高くなることも意味します。従来に比べて、制御するピクセルの数が4倍になり、表示するデータの解像度も4倍に増えているからです。
処理能力の増強が必要となれば、新しい技術がない限り、消費電力も増えます。
おそらく初代 iPad mini を設計・開発した時点では、バッテリ稼働時間を iPad と同程度にしたかったため、Retina Display の採用を見送ったと考えられます。
iPhoneとiPadでプロセッサを「A7」に統一
それが今年になって可能になったのは「A7」プロセッサの恩恵と思われます。計算を行う CPU・描画を行う GPU・システムメモリが1つになったものです。
これまで Retina Display を搭載した iPad には、iPhone 向けの「A5」「A6」の描画能力・メモリを強化した「A5X」「A6X」が搭載されてきました。
その分だけ消費電力が増えたためか、同程度の稼働時間を確保するためにバッテリを増量。その結果、第3世代・第4世代 iPad は iPad 2 に比べて厚み・重量が増しています。
そのプロセッサを iPhone 5s と同じ「A7」に変更したことで、従来の iPad よりも消費電力を削減できたと考えられます。
現に iPad Air は第3世代・第4世代 iPad よりもバッテリを小型化していますが、発表されている稼働時間は全く同じです。
機種 | 第3世代・第4世代iPad | iPad Air |
厚み | 9.4ミリ | 7.5ミリ |
幅 | 185.7ミリ | 169.5ミリ |
重さ | 652グラム | 469グラム |
バッテリ | 42.5Wh | 32.4Wh |
稼働時間(Wi-Fiでネット・オーディオ再生・ビデオ再生) | 最大10時間 |
ただし、iPad mini の場合はそれでもバッテリが足らなかったのか、初代モデルと同じ稼働時間を確保するために増量。厚み・重量は従来よりも増しています。
機種 | 初代iPad mini | iPad mini Retinaディスプレイモデル |
厚み | 7.2ミリ | 7.5ミリ |
重さ | 308グラム | 331グラム |
バッテリ | 16.3Wh | 23.8Wh |
稼働時間(Wi-Fiでネット・オーディオ再生・ビデオ再生) | 最大10時間 |
とはいえ、iPad mini Retinaディスプレイモデルのピクセル密度は 326ppi で iPhone 5s と同じ。iPad Air の 261ppi よりも高密度です。
そのため、iPad よりも1つ1つのピクセルが識別しにくいと考えられ、より滑らかな表示が期待できます。厚み・重量増の短所をカバーできる魅力となるかに注目です。